【通関士】課税価格を極めよう 買手が無償で提供した物品または役務の費用

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どうも。ケニー(ケニー🚢第58回通関士試験チャレンジ中)です。このシリーズでは、通関士試験に合格するための知識や攻略法について、受験生目線でアウトプットしています。

通関士試験指導「みこ会」メンバーです。好きなお寿司のネタは、禁漁時期のホッキです。

前回のふりかえり

前回は、税関視点から見た限定列挙の加算要素、をお届けしました。

限定列挙の加算要素の全体像は、以下の5つでした。 

1つ目の「輸入港までの運賃」を、税関目線でみてみましたね。

2つ目の、「輸入取引に関し買手により負担される買付け手数料または容器などの費用」の解説は割愛します。

今日は、3つ目の「買手が無償でまたは値引きして提供した物品または役務の費用」を解説します。

もちろん、税関目線でいきましょう。

無償提供物品と役務の仕組み

商品を生産するための金型などは、本来は売手が負担し、買手が輸入取引の段階で支払うものです。 

しかし、買手が無償(または値引き)で、売手に金型などを提供することもあります。 

このような取引の費用を、売手は負担していませんので、費用をインボイス価格に転嫁しません。 

なので、税関は、輸入申告時にインボイスに記載されている取引価格には、買手が無償(または値引き)で提供した以下の費用は反映されていない、と考えます。

  1. 輸入貨物に組み込まれている材料、部品
  2. 輸入貨物の生産のために使用された工具、鋳型など
  3. 輸入貨物の生産の過程で消費された物品
  4. 輸入貨物の生産に必要とされた技術や意匠で本邦以外で開発されたもの

1.~3.は物品の費用で、4.が役務の費用です。

買手が輸入取引の段階で支払うはずだった費用を、輸入取引の前に支払ったんでしょと、税関は考えるのです。 

これが、無償提供物品と役務が、課税価格に加算される仕組みです。

共通ルール

無償提供物品と役務の仕組みには、いくつかの共通ルールがあります。

物品・役務の提供に要した費用の加算

「物品の提供に要した費用」には、その物品を輸入貨物の生産および輸入取引に関連して提供するために要した運賃、保険料その他の費用が加算されます。

物品とは、1.~3.の物品の費用のことでしたね。

同様に、4.の役務の提供に要した技術提供料、デザイン費用、技術者の派遣費用などの費用も、加算されます。

これらの費用は、輸入貨物の生産に直接関連して提供されるため、輸入貨物の課税価格に加算されることになります。

具体的には、以下のような形で適用されます。

  • 技術や意匠の提供が輸入貨物の生産に必要不可欠な場合、その提供に要した費用は全て加算されます。
  • 技術提供やデザイン費用が契約書やインボイスに明示されている場合、その金額が課税価格に加算されます。

ひっかけ問題として、「本邦でデザインされた生地のデザイン費用は加算される」というのがあります。

輸入貨物である「鞄」のデザインは、本邦でデザインされていたら加算しませんが、「生地」は鞄の生産に関連して提供される費用だからです。

輸入取引における、以下の2つの費用を、区別しましょう。

輸入貨物に加算される費用

輸入貨物費用の例
自動車1.運賃および保険料など、2.仲介手数料など、 3.無償提供された物品の費用など、4.ライセンス料など、5.売手に帰属する収益
※この1~5が限定列挙の加算要素

輸入貨物の生産に必要で無償提供された物品や役務の加算要素

輸入貨物生産に必要な物品費用の例
自動車エンジン特許使用料
おもちゃプラスチック原料運賃保険料
原薬技術指導料、渡航費

取得・提供ルートによる費用の範囲

物品や役務が、買手によって直接生産または特殊関係者から直接取得されたばあい、その生産または開発に要した費用が加算されます。

これに対し、通常の市場から取得したばあいは、取得に通常要する費用が考慮されます。

価値の増加・減少に基づく加算または控除

物品または役務の価値が増加または減少した場合、その増減に相当する額が課税価格に加算または控除されます。

これは、物品や役務の実際の価値を反映するために行われます。

他の貨物との按分

物品や役務が複数の貨物に使用される場合、その利用の程度に応じて費用が按分されます。

これは、費用を公平に配分するために必要です。

スペア部品等のルール

役務の共通ルールではありませんが、物品に適用される共通ルールもあります。

「スペア部品や、生産ロスを見込んで提供された物品についても、輸入貨物の一部として考慮される」というものです。

そのような物品は、費用として加算される場合があります。

別払金や有償提供との関係

売手が調達してきた物品・役務の費用を、買手が売手に「別に」払ったばあいは、別払金(べつばらいきん)の可能性があります。

インボイスには載っていない、割増金や契約料の上乗せ払いのことで、それを払わなければ取引が成立しないし貨物代金の一部だねと、税関は考えます。

これは、「インボイス価格以外の現実支払価格」で学びましたね。

物品や役務を、買手が有償で提供したばあいは、インボイス価格に転嫁されるはずなので、加算されません。

物品・役務の提供は、誰が調達したかは問われません。買手が費用を負担しているかどうか(無償による提供か)が問われます。

100万円の物品を無償で提供したから、輸入するときのインボイス価格(関税額)はゼロ円みたいなことはできないのです。

以上が、共通ルールでした。

それでは、1.~3.の物品の費用、4.の役務の費用の個別ルールを解説していきます。

個別ルール

個別ルールは、とくに押さえておきたいポイントだけに絞ります。

1. 輸入貨物に組み込まれている材料、部品

買手は、商品にオリジナルステッカーを貼付したいので、事前に売手に無償提供することもあると思います。

このように、輸入貨物に組み込まれている材料や部品で無償提供したばあいは、課税価格に算入されます。

ただし、我が国で表示を義務付けられている「食品衛生法に基づくラベル」や「家庭用品品質表示法に基づくラベル」に要する費用の額は、課税価格に参入しません。

2. 輸入貨物の生産のために使用された工具、鋳型など

共通ルールの項で解説しております。

3. 輸入貨物の生産の過程で消費された物品

共通ルールの項で解説しております。

4. 輸入貨物の生産に必要とされた技術や意匠で本邦以外で開発されたもの

共通ルールでは、輸入貨物である「鞄」のデザインは、本邦でデザインされていたら加算しませんが、「生地」は鞄の生産に関連して提供される費用なので加算する。というひっかけ問題を紹介しました。

この、「本邦でデザインされていたら加算しません」というのは、日本以外(外貨であるという意味)で開発やデザインされたもの、という意味です。

役務について契約が行なわれた場所は無関係であり、役務に従事する者の国籍も問わないので、外国人が開発しても日本人が開発しても関係ありません。

まとめ

以上で、「買手が無償で提供した物品または役務の費用」をお届けしました。

実は、わたしがいちばん苦手な分野でした。

2回に分けてもっと丁寧に解説した方がよかったかも。後は過去問を解きながら習得したいです。

参考資料

みこ会「課税価格の決定の原則」

このシリーズの目次 第57回

このシリーズの目次 第58回

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